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静岡地方裁判所浜松支部 平成9年(ワ)279号 判決 2000年7月13日

原告

田村欣也

ほか二名

被告

小島一宏

主文

一  訴訟承継前の原告田村庄二の訴えにかかる原告らの訴えを却下する。

二  原告田村光正の請求(右一の部分を除く)を棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

訴訟承継前の原告田村庄二及び原告田村光正が訴えを提起したところ、平成一〇年七月一一日、田村庄二が死亡し、その共同相続人である、田村光正を含む原告らがこれを承継した。

田村庄二及び田村光正の請求の趣旨は左記のとおりである。

一  田村庄二について

被告は田村庄二に対し、金一五八六万〇九二七円とこれに対する平成九年七月二五日(訴状送達の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  田村光正について

被告は田村光正に対し、金五二八万六九七五円とこれに対する平成九年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案

一  田村庄二の妻で原告らの母の田村せつが、被告が運転する自動車による交通事故によって死亡したとして、これによる損害賠償を請求する事案であり、原告らが主張する損害は左記のとおりである。

<1>  治療費 金四六四万四二三四円

<2>  入院雑費 金二六万一三〇〇円

<3>  介護料 金二一五万〇〇七〇円

<4>  休業損害 金一四四万七八七〇円

<5>  逸失利益 金一四六三万六三四五円

<6>  入通院慰藉料 金二五〇万円

<7>  死亡慰藉料 金三〇〇〇万円

<8>  葬儀費用 金一二〇万円

二  これに対して、被告は損害額を争い、過失相殺等を主張する他、田村庄二が原告ら訴訟代理人に本件訴訟を委任したことを否認する。

第三判断

一  甲第一ないし第四号証、乙第一ないし第三号証、第五号証の一ないし一八、第六号証、被告本人尋問の結果によると以下の事実を認めることができ、又、以下のように言うことができる(尚、一部の事実については当事者間に争いがない)。

(一)  原告らは、夫婦であった田村庄二と田村せつの子らである。

(二)  平成六年九月二一日午後八時四〇分頃、浜松市有玉西町一七七番地の二先路上において、被告が運転する普通乗用自動車が田村せつに衝突、せつが負傷(脳挫傷)し、せつは県西部浜松医療センターに入院、平成六年一二月七日、協立十全病院に転院し、平成七年四月九日、症状が固定したとして、後遺障害等級一級三号の事前認定を受けたが、平成八年八月二五日、死亡した。

尚、協立十全病院は完全看護体制の病院である。

(三)  本件事故の状況は左記のとおりである。

現場の道路の状況は、別紙図面のとおりであり、照明の施設はなく、夜間は暗く、又、四〇キロメートル/毎時の速度制限の規制がある。

被告は時速約五〇キロメートルの速度で東進、別紙図面の<1>の地点で、約五〇・四メートル前方、○の地点に黒っぽい物(田村せつ)を発見したけれども、人とは思わずにそのまま進行、○の地点の約一五・二メートル手前、<2>の地点で、黒っぽい物に自車の前照灯の光が当たったため(道路が右にカーブしていて、それまで当たらなかった)、それが踞った状態の人であることに気付き、ブレーキをかけると共に、右にハンドルを切ったけれども、そのままの状態のせつの頭部に自車の左前部が衝突して、せつが転倒した。

(四)  田村せつは大正一四年一月二九日生(本件事故当時六九歳)の女性であるが、平成五年二月一〇日、「多発性脳梗塞、水頭症」と診断され、同月二三日、同病院に検査入院し、退院後、同病院に通院するようになり、同年六月からは訪問看護を受けるようになり、又、それまで、せつは、同じく脳梗塞の夫の庄二の世話をしていたが、本件事故当時、それも困難な状態であった。

本件事故現場はせつの自宅から直線距離で約四キロメートル、当時、庄二が入所していた介護施設「さぎの宮寮」から二キロメートル以上離れた地点であり、又、自宅は「さぎの宮寮」の南方であるが、事故現場は西方であり、本件事故当時、せつが、何故、その現場に居たのかについて、家族等、周りの者にも分からない。

二(一)  田村せつの治療費として合計金四六四万四二三四円を要したことは当事者間に争いがない。

(二)  右一記載の事実関係によると、本件事故によって、せつは左記のような損害を被ったと言うべきである。

<1> 入院雑費 金二六万一三〇〇円(一日当たり金一三〇〇円)

<2> 入通院慰藉料 金二五〇万円

<3> 死亡慰藉料 金二〇〇〇万円

<4> 葬儀費用 金一二〇万円

(三)  介護料については、協立十全病院が完全看護体制の病院であったことから、これを認めることはできない。

(四)  休業損害、逸失利益については、前記のとおり、せつは、本件事故当時、自分の身の回りのことは、一応、できるという程度に過ぎなかったと言うべきであるところから、これらを認めることはできない。

(五)  以上によると、本件事故によって、せつが被った損害の合計は金二八六〇万五五三四円である。

三(一)  前記の事故の態様からすると、被告とせつの過失割合は、各二分の一とするのが相当である。

(二)  従って、被告が賠償すべき金額は金一四三〇万二七六七円となる。

四  本件事故による損害賠償として、被告が金一八三〇万〇六六八円を支払ったことは当事者間に争いがない。

従って、せつが被った損害の賠償債務については支払済みであると言うべきである。

五  乙第七号証の一ないし七、第八号証の一ないし三、第九号証の一、二及び弁論の全趣旨によると、田村庄二は、「多発性脳梗塞」等のため、入退院を繰り返し、本件訴えが提起された平成九年七月当時、老人保健施設「エーデルワイス」に入所していたが、介護職員との間で、意思の疎通をはかることができない状態であったこと、原告らの訴訟代理人が庄二に直接会ったことはないこと、本件庄二名義の訴訟委任状は田村光正が作成したものであることが認められ、これらの事実からすると、庄二が本件訴えを原告らの訴訟代理人に委任したことはなく、光正が庄二名義の訴訟委任状を作成して、原告らの訴訟代理人に交付し、本件訴えを提起することを委任したと推認される。

六  以上の事実関係によると、田村庄二の訴えは却下すべきであり、又、田村光正の請求は棄却すべきである。

よって、主文のとおり、判決する。

(裁判官 田中優)

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